いよいよ始まったサム・ウィルクスのジャパン・ツアー。これまでもサム・ゲンデルとのデュオやルイス・コール・ビッグバンドを含め何度も来日を果たし、近年は星野源らのバックでも存在感のあるベースを弾いている。ジャンルレス世代のジャズマンとして豊かな才能の持ち主であると同時に、もじゃもじゃ頭でよく笑う最高のキャラクターで愛されている。
今年のツアーでは、招聘元のFRUEによってとても興味深い企画が組まれた。まず前半の九州2公演(熊本NAVARO、八女・旧八女郡役所)では角銅真実とソロ・ツーマン。そして後半の京都METRO、野外フェスFUJI & SUN '25、渋谷WWW Xと続く3公演ではサム・ウィルクス・カルテット(ウィルクス、クレイグ・ウェインリブ、ウィル・グローフ、ベニー・ボック)に中村佳穂が参加するスペシャル・セット。現代に日本の音楽シーンで奔放に活動する2人の女性ミュージシャンと、それぞれのやり方で交わる。何が起きるかまるで予想がつかないし、予断も許さない。だけど、これだけは言えるのは、そこにあるのは見たことも聴いたこともない音楽が生まれる瞬間だろう。
「心はオープンだけど、突き詰めるとヤバい。ヤバさがある!(笑)」
ウィルクスの魅力について、角銅真実はこう答えてくれた。初めて2人が会ったのは、「FESTIVAL FRUEZINHO 2022」(6月26日、立川ステージガーデン)。サム・ゲンデル&サム・ウィルクスとして出演したとき、舞台裏で2人のサムがとても緊張していた場面を覚えているという。
2人が打ち解けるのは早かった。お互いのアルバムについて感想をメールで送りあい、会うたびに「一緒にやりたかったよ!」と言い合う仲。
「ウィルクスのソロ・アルバム(『DRIVING』2023年)が好きなんです。彼の歌も好き。歌手の人とはまた違う良さで、音の中でのシーンの解像度がちょっと怖いくらい高い。彼の音楽に対するシリアスさを感じたと言いたくて、ウィルクスには“「走馬灯で思い出しそうなアルバム。死ぬ間際か死んだ後に思い出しそうなアルバム”って感想を送りました。そしたら「どういうこと? このことについて今度議論しよう」って返ってきました(笑)」
熊本と八女では、お互いに与えられた時間を自由に使うということしか決まっていないと角銅は笑ったが、一緒に音楽をやる時間を設けることは決まっている。
「私は今回ウィルクスと一緒にやりたいカヴァーがあるんです。誰も楽しみに思わないかもしれないけど、ファミコン版の「ドンキーコング」の水中ステージで流れる曲。めちゃめちゃいい曲なんですよ! ウィルクスの音楽であの曲を思い出したし、今回の2公演は二人旅だから、私の中では二人旅といえば弥次喜多か、ドンキーコングなので(笑)。それもあって、あの曲をやりたいなと思ってます」
いっぽう、中村佳穂はウィルクスについて、「性格の素地が近いと思います」と語った。「好奇心があり、すごく真面目というところが(近い)。なんでも人の話は聞くし、音も取れるんですけど、それを自分からアウトプットするまではめちゃくちゃ真剣。そこが私と似たような人、と思ってます」。
彼女がウィルクスと実際に会ったのは「FESTIVAL de FRUE 2023」(11月3日、4日、つま恋リゾート彩の郷)なので、まだそれほど時間は経ってない。しかし、それ以前からウィルクスの音は認識していた。
「ルイス・コールが一軒家でやってる演奏動画(2018年公開)が好きで。KNOWERでやってるときにジェイコブ・マンやウィルクスもいて。私がFRUEに初めて出た23年にウィルクスの名前があったので、「あ、一軒家でベース弾いてた人だ!」と思ったのが最初の印象でした」
その23年のFRUEで、エルメート・パスコアールのライブにシンガーとして彼女が参加したとき、舞台袖でめちゃめちゃ盛り上がっているウィルクスの姿があった。親しくなった彼女を応援しているだけでなく、音楽そのものを祝福しているように見えて、ぼくもすごく印象に残っている。
「FRUEのときは私とも一緒にやってもらいたくて、モーニングビュッフェで「私の曲でモストイージーソングがあるから、そのときに共演してくれ」ってボイスメモを渡したら、満面の笑顔で快諾してくれて。だけど、出番1時間前くらいに神妙な顔でベース持って現れて「コード感とバースをもっと詳しく教えてくれ。ベースっていうのは間違えると浮くから、きちんと弾きたいんだ」って。その受け入れる姿勢と、けど音楽を真摯に分析するバランス感は、彼の性格をよく表してるなと思います。」
今回のツアーでは、京都公演の前に2日間がっつりで、ウィルクスのバンドと共にリハに入る予定を立てているという。
「最近ウィルクスは日本の南の島の音楽をディグってるらしく、すごい昔の唄を映像でシェアしてくれました。その唄を今回一緒にトライしてみます。私が宮古島に近日行くと話した内容がきっかけだったみたいですが、自分では選ばなかった音楽を彼が好奇心で持ってきて、それを私が調理する。すごくうれしいし、楽しみです。私の曲も一緒に演奏しよう!ってなってるんですけど、ウィルクスは新曲を作りたいモードでもあるらしく、セッションの延長線みないなこともやるんじゃないですかね。さ彼からのメールには全部「いいね!」って返してます。」
角銅真実と中村佳穂。2人が共通してウィルクスに対して感じているのは、ウィルクスの温かいハートと音楽に対する真剣さ。それが矛盾することなく同居していることが、音楽の心地よさでもあり、未来に音楽を作るものへの鼓舞にもなっていると感じる。
最後に2人からウィルクスへの言葉を添えておく。
「ウィルクスからは、おっきなハートも感じるけど、繊細さと強さといろんなものがある気がする。あの世界にいくためにこの道を通らなきゃいけない。でも、それを決め事でやるんじゃなく、音楽をやりながらその都度“こっちだ!”って判断してゆく部分がある。普段しゃべってたり、ライブのときに見えるところじゃない部分も音楽にいっぱい出てて、それが気になるし、魅力だと思う」(角銅)
「すごく感じるのは、音に対してもピュアな好奇心があるのと同様で、人に対してもそれがある人。同時に、自分でもその好奇心に応えたいという気持ちがちゃんとあるから、すごく真面目。あとは大型犬みたい(笑)。ハイジに出てくるおっきいワンちゃんみたいに美味しそうにフルーツを頬張る(笑)。今回もリハに入るまではお互いにずーっと好奇心のある話をして、リハに入ったらめっちゃ真面目に音楽をやる。今月末まで私も期待を膨らませてます。楽しみ!」(中村)
Wilkes! -Japan Spring Tour 2025-
FRUE in Kumamoto ft.Sam Wilkes, 角銅真実, Yamarchy
Date:5/23(fri)
Time:Open・Start 18:00 / End 25:00ごろ
Venue: NAVARO(熊本)
Ticket取扱店:picnic / KIJIYA / ENDELEA COFFEE / Anann / Orann
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Sam Wilkes / 角銅真実 in Yame
Date:5/26(mon)
Venue:旧八女郡役所(福岡)
FOOD:水曜カレー
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Sam Wilkes Quartet with Craig Weinrib, Will Graefe, and Benny Bock ft.中村佳穂
Date:5/29(thu)
Time:Open 18:00 / Start 19:00
Venue:メトロ京都(京都)
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FUJI & SUN'25
Date:6/1(sun)
Venue:富士山こどもの国(静岡)
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Date:6/2(mon)
Venue:WWW X(渋谷)
Time:Open 19:00 / Start 20:00
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shokutone-食と音- Simples × FRUE ft. Sam Wilkes
Date:6/3(tue)
Venue: BAROOM(南青山)
Lineup:Sam Wilkes 他
ドリンク:Un Jour Marche
Time Table(予定):
16:30-17:30 Dinner Open ※食事付の方
17:30-20:00 Dinner Time
20:00-20:45 Live Open ※ライブのみの方
20:45-22:15 Live Time
22:15-23:00 Bar Time
各公演の前売チケットはFRUE SHOPにて販売中
https://shop.frue.jp/
1968年、熊本県生まれ。ライター/編集。著書『ぼくの平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック』(晶文社) 発売中。